Dream
ドリーム

90年代、日比谷野外音楽堂のサマージャズに登場したキャロル山崎の若々しい姿と、透明感のある魅力的なヴォイス、白人系レディシンガーに通じる心地よいスイング感、そしてロマンティックな歌い方で聴衆を魅了したことは記憶に新しい。

以降のキャロルの活動はいささかの停滞もなく、着実に研鑽を積み、多くの人に愛されてファンを増やし、輝かしいキャリアを重ねて、わがヴォーカル界屈指のスタンダードジャズシンガーとして高く評価されるまでになった。

数々のサマージャズ祭、有名コンサート、豪華なホテルディナーショーなどに出演して常に華やかにハイライトを浴び、ヴォーカル界の最大アワードと言われる、1993年度第9回日本ジャズヴォーカル賞新人賞を受賞して、いよいよ揺ぎ無いスター歌手となった。反面、自分に厳しい人柄からか、長年アルバムを作らなかったのが、キャロル・ファンにとっては唯一の不満であった。

そんな折、まさに満を持しての初スタンダード・アルバム“DREAM”が06年11月18日リリースされた。

80年代、キングレコードから出したオリジナルアルバム“AMORE”以来、ほぼ20年ぶりのリリースで、しかも巨匠前田憲男のサウンド・プロデュースを得ての快挙である。

編曲は前田憲男、ディレクターは稲垣次郎、演奏は日本を代表するメンバーを擁したオールスター編成の「前田憲男&ウインドブレイカーズ」。スペシャルゲストに北村英治(クラリネット)、大野俊三(トランペット)。エンジニアはL.A.からの小林裕人、マスタリングはバーニーグランドマンの田中三一、ジャケットデザインはセンスあふれる吉田竜二、ライナーノーツはジャーナリストの木村太郎。

豪華スタッフによるフレンドリーなサポートによって誕生したこのアルバムは、キャロルの人柄を感じさせる素直で美しい歌声を、いつ聴いても心が和む名曲の数々で聴く人々を限りなくロマンティックなムードに誘ってくれるはず。そして末永くファンに愛聴されることだろう。

Media

収録曲

1 Charade [3:24]
2 Black Coffee [5:15]
3 There Will Never Be Another You [4:30]
4 I Should Care [4:36]
5 Gaslight In The Twilight [4:05]
6 It Had To Be You [3:08]
7 I’ll Be Seeing You [2:51]
8 Poinciana [3:31]
9 Good Life [4:11]
10 Old Devil Moon [4:06]
11 Dream [3:02]
12 Autumn Leaves [5.37]
13 Moon River [3.25]

Liner Notes

私が関わっている放送局「湘南ビーチFM」の開局初期のこと、土曜日に葉山マリーナで開かれているジャズ番組に出演した
女性ヴォーカリストのことがなぜか印象に残った。「上手い」とか「歌唱力がある」というよりも、彼女の歌に「オリジナリティ」があることが印象的だったのだ。
その時何を歌ったかは記憶にないが、彼女の歌にアメリカのシンガーの影を感じなかったのだ。

日本のジャズシンガーがスタンダードナンバーを歌う場合、例えばI only have eyes for youはペギー・リーの、You’d be so nice to come home toならヘレン・メリルの、Mistyならサラ・ヴォーンの節回しをそのままコピーすることが多い。
しかし、節回しはその歌に対するシンガーの思い入れの現れであり、思い入れが借りものであっては、歌に説得力があるわけがない。そんな借りものの歌にうんざりとしていたときに聞いた彼女の歌は、歌詞を彼女なりに表現しようとしていてなにか新鮮なものに感じたのだった。

そのシンガーが「ジャズ・ヴォーカル新人賞」を取ったと聞いたのはそれからしばらくたってのことで、彼女の名前がキャロル山崎だったこともその時に思い出した。その縁で、彼女のライブに行くようになったが、話してみるとジャズをこねくり回さずに、素直にエンターテインメントとして客を楽しませ、自らも楽しんでいることが分かって嬉しかった。

キャロルが「湘南ビーチFM」でレギュラー番組を持ち、今も第一土曜日に開催しているジャズライブ「湘南ジャズ・バイザシー」のホステス役を務めることになったのは自然の流れだった。
そのキャロルに一度強くアドバイスをしたことがあった。それは「本場のジャズに浸ってくること」だった。
私のアドバイスが効いたのかどうかは定かではないが、しばらくの間ニューヨークのハーレムで過ごした後のキャロルの歌は間違いなく変わった。

このアルバムは、そのハーレムのキャロルの収穫を詰め込んだものだ。
前田憲男さんらすばらしい演奏者に恵まれたのも「キャロルにためならひと肌脱ごう」と思わせる彼女の人柄の賜物だろう。
キャロルはいまブルースを再発見しているのだとか。

次のアルバムが楽しみだ。

木村太郎